きみの夢から覚めた朝
 ファン・トゥアン・クゥ。
 元気にしてるかい?
 僕は元気だよ。
 風邪一つ引きやしないんだ。
 健康すぎて、いやになるくらいさ。

 カァテンの隙間から差しこむ朝日は、
 降りそそぐ真昼の日差しよりも、よっぽどまぶしい。
 これにかなう光なんて、そう、
 きっと幸せいっぱいのきみの笑顔くらいだね。
 うん、夢の中のきみは今日もかわいかったから、
 朝日の刑に処されても、僕は全然こたえない。
 まったくきみの笑顔ときたら、とろけるように甘いんだから。


 ファン・トゥアン・クゥ。
 きみに置いていかれてから、もうずいぶん経ったような気がするよ。
 おかしな話さ。
 僕の心ときたら、あの日から、
 まるで時が止まったみたいに茫然自失の状態なのにね。

 居心地のいい毛布から、のそのそと這い出ていく。
 日に焼けて色あせたカァテンをめくれば、
 外はからりと晴れ渡っていた。
 ああ、今朝は、空がとても綺麗だ。
 きみの瞳と、同じ色をしているよ。
 うっすら浮かぶ雲の慎ましさなんて、まるできみにそっくりだ。
 眠りの余韻に浸ったままで、窓を開けて風を呼びこむ。
 しっとりと濡れたような朝の空気は、どこか花の香りがした。


 ファン・トゥアン・クゥ。
 きみに会いに行きたいな。
 会いに来るなって言われると、かえって会いたくなるものさ。
 だけどきみが望むなら、僕は自分からは行かないよ。
 だから、せめて待ちくたびれる前に、会いに来てくれると嬉しいな。

 適当に着替えて家を出て、とりあえず散歩をする。
 いつも二人で歩いた道だけど、
 一人で歩くことにも、もう慣れてしまったよ。
 森の緑を含んだ、涼やかな風が頬に当たる。
 それがふわりとくすぐったくて、僕はかすかに笑みを浮かべた。
 今日は少し遠出をして、街まで行ってみるのもいいかな。
 顔なじみの紅茶屋に、きみの大好きな茶葉を買いにさ。
 あのお茶、あれから毎日飲んでいるけど、
 いまだにどこが美味しいのか全然わからないんだ。
 きみの味覚って、やっぱり飛び抜けて変わってるよ。


 ファン・トゥアン・クゥ。
 元気にしてるかい?
 もう無理をしてはいないよね。
 天の国でもきみは病弱だろうから、
 僕は心配で仕方がないんだ。
fin.