子供たちの願いごと --- Assumed ignorance
[ Before ] side ----- 魔法使いの話
 このあたりの土産話にするっていったら、やっぱりあの錬金術師だよ、旅人さん。え、聞いたことない? ここの町外れにね、ある錬金術師が工房を持ってるのさ。ああ、名前は誰も知らないって聞いたな。でも、人形錬金術師っていったら、その業界ではかなり有名らしいよ。……そう、人形なんだよ、人間じゃなくてね。今この世界にいる、どの錬金術師よりも長生きのさ。そうそう、百年だか二百年だか錬金術をやってきたらしいね。

 そう、それなんだけど……、あの錬金術師は、自分を作った人形師を蘇らせようとしてるんだよ。ああ、もちろん錬金術でね。そんな話を聞けば、まあ大抵の人間は眉をひそめるよね。人間を作り出す、っていうこと自体、長い間口にすることさえ禁忌とされていたらしいし、事実、一部の錬金術師の間じゃ反発が凄いらしいしさ。……そうだねぇ、私もよくは知らないけれど、人形にとって、自分を作った人形師っていうのは特別な存在らしいからね。たとえどんなに非難されたとしても、実験を続けるだけの価値はあるんじゃないかい?

 ま、その実験も、今のところは失敗続きみたいだね。たまに私のところに魔法を勉強しに来る、弟子のほうが言ってたよ。……錬金術師の弟子がどうして魔法を習いにって? それがね、その錬金術の実験に、どうしても魔法の力が必要なんだってさ。生まれたばかりでいろいろ大変だろうに、とても熱心でね……、え? ああ、そうだね、旅人さんは知らないよね。あの子は、その錬金術師に作り出された人間なのさ。見た目は十七、八歳だけど、まだ生まれてから一年も経っていないはずだよ。そう……、その、人形師を蘇らせる実験の失敗作さ。

 失敗っていっても凄いことだよね、だって人間を作り出すことには成功したんだから。それもね、ただ人間を作ったっていうんじゃなくて、外見とか能力……魔法の素質とか、そういうものは例の人形師とそっくり同じらしいよ。ただ、記憶は何もなくて、性格も微妙に違うんだってさ。私なんかは思うんだけど、普通の錬金術師だったら、それで十分満足すると思うよ。けどねぇ、あの錬金術師は全然納得がいかないみたいでね……。まぁ、目的が達成されるまでは何ができても失敗なんだろうけど。そういう姿勢には多少共感するところもあるけど……、私はあの子が可哀想でね。

 だって失敗作ってことは、実験が成功したら、もうあの子は必要ないってことだろう? それなのに、その実験にあの子を手伝わせるんだからね。そうでなくたって、もし実験に魔法が関係なかったり、あの子が魔法の力を持って生まれてきてなかったら、あの錬金術師のことだ、絶対あの子を放り出してるよ。本当に、その人形師のこと以外はどうでもいいって感じだからね。

 え? それならどうして、あの子はそんな錬金術師のところに居続けてるのかって? ……あの子はねぇ、ちょっと天然ぼけしてるところがあるからね。実験が成功したら自分がどうなるか、なんて考えたこともないと思うんだよね。ただあの錬金術師の役に立てるのが嬉しい、って感じでさ……。だからこの町の人もみんな、あの子がにこにこしながら錬金術師の話をすると、どう反応したらいいのか困ってしまうのさ。