子供たちの願いごと --- Assumed ignorance
[ After ] side ----- 錬金術師の弟子の話
すみません、マスタァは外出中なんです。いつ帰るかはわからないんですけど……、ここでお待ちになりますか? お茶くらいなら出せますよ。……え、僕でもかまわない? ええと、どういったご用件ですか? ……ああ、旅の方なんですか。それで、土産話に何か聞きたいと……、そうですか。そんなにたいしたことは話せないですけど、それでよろしければ。
町のほうで、マスタァの噂を聞いたんですか? ええ、そうですよ。マスタァはずっと昔、ええと、三百年くらい前だって言ってましたね、無名の人形師に作られた人形なんです。だから長生きで、あ、生きてはいないんでしたっけ、とにかく長いことこの世界にいるわけですから、知識もそれは豊富ですし、実験も相当な回数をこなしてます。今までにもいろいろな発見をしていて、それで錬金術師の間では有名なんですよ。遠方からわざわざ訪ねてくる方もいらっしゃいますしね。
マスタァが錬金術師を志したのは、ただ一つの目的のためなんです。マスタァのマスタァ、つまり、マスタァを作った人形師ですね、その人を蘇らせる……というか、錬金術ですから、作り出すためですね。そんなことができるのかって? ええ、理論上は可能だって聞いてます。でも、それはあくまで理論の話で、実際は失敗続きなんですけどね。
どうもマスタァ一人だと条件がそろわないみたいで、ええ、それで他の方に何度か手伝ってほしいと頼んだこともあるみたいなんですが、人間を作り出すなんて倫理に反する、とか何とか言われたみたいで。ええ、しかも、蘇らせるに近いかたちですしね。いろいろ腹立たしいことを言われて、それでかちんと来てこう言っちゃったらしいです。人間が人間を作り出すのは問題かもしれないが、人形が人間を作り出すことは問題にならない、人間だって人形を作り出すんだからお互いさまだ、って……。それがまた論議を巻き起こしてしまったらしくて……、もうあんな人たちはあてにしない、ってマスタァ、溜息ついてました。
そうです、それで、僕がお手伝いをすることになったんですよ。どうやら足りないのは魔法の力だって話なので、頑張って魔法の研究をしてるんです。ええ、問題は、魔法の力をどうやって錬金術に活かすかですよね。やっぱり独学ではよくわからないことも多くて、たまに町の魔法使いさんのところに勉強しに行くんですけどね。
マスタァは、次に実験をするときの準備がいろいろあるみたいで、今日みたいにふらっといなくなることも結構あります。今度こそマスタァのマスタァに会えるかもしれないんですから、やっぱり準備にも熱が入りますよね。マスタァの気持ち、よくわかりますよ。僕にとっても、マスタァは特別ですからね。マスタァの望みならどんなことでも叶ってほしいし、僕にできることなら何でもしたいです。
でも、こう言ったら、町の人たちはみんな、複雑そうな顔で僕を見るんですよね。ねぇ旅人さん、僕、何か変なこと言ってるんでしょうか? 口だけとか、冗談とかだと思われてるのかなぁ。……でも僕、本当に、マスタァのためになら何だってできますよ。たとえそれで僕がどうなったとしても……、ね?
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