一通の懺悔
【 半月後 (つづき) 】
 日が低くなるにつれ、風は少しずつ冷たくなってきたようでした。赤みを増した太陽は、もう遠くの山の峰に触れかけています。軽やかに踊る落ち葉の中、乾いた音をたてる草を踏みしめて、セントゥールはゆっくりと『彼』に歩み寄りました。
「――会って、きましたよ」
 静かな声が、途切れた風のあとを追うように響きました。
「お元気でした。宿のほうも繁盛しているようで、毎日忙しいそうです。大変だけれど、充実していて、とても幸せだと笑っていました。彼女の唯一の悩みは、仕事が多いぶん、子供たちと接する時間があまり取れないことらしいです。でも、そんなときには、彼女はいつも自分の両親のことを思い出すそうです。両親も仕事で忙しかったはずなのに、暇な時間を見つけては一緒の時間を過ごしてくれた、寂しい思いをしたことなんて、ほとんどなかった。だから自分も、そんなふうに子供たちに接していきたい、と言っていました。夫もほとんど同じ考えだから、二人でならきっとそうできると」
 『彼』は何も言わずに、黙ってセントゥールの話を聞いていました。セントゥールは、少しの間口を閉ざして、それから思い切ったようにつぶやきました。
「あなたの手紙……、渡してきました」
 ざわざわと風が木々を通りすぎて、赤い葉が舞い落ちました。
「彼女からの伝言です。――『許してほしいなら、どうか会いに来てください。そして、あなたが誰なのかを教えてください。このままでは、お返事も出せません』」
 言葉が途切れて、あたりに沈黙が戻ってきました。時折強く吹く秋風だけが、寂しげな音を奏でます。太陽はすっかり赤く染まって、並び立つ家々に長い影を伸ばしていました。セントゥールはもう一度、かすかな微笑みを浮かべました。そうして、しばらく『彼』を見つめていましたが、やがてゆっくりときびすを返すと、静かに立ち去っていきました。
 遠ざかる後ろ姿を見送りながら、『彼』は最後まで、黙りこくったままでした。