純白の香り
[ 1 ]   プロローグ --- 偽りの終わりのこと(前編)
 扉を開けた彼女は、僕を見上げて微笑んだ。
「いらっしゃい、セラルさん。今日はあなたが来ると思っていたわ」
 その微笑みが、いつもと違って、ほんの少しだけはにかむように赤らんだのを、僕の目は見逃さなかった。
 一月前、彼女の十七の誕生日に贈った、あの指環がよほど嬉しかったのだろうか。七つの星をかたどった、僕の作った銀色の指環。
 口の端に笑みを浮かべて、僕は彼女に挨拶をする。
「こんにちは、サユ。今日は大事な用があって来たんだ。中に入れてもらえるかい?」
「ええ、もちろん。さあどうぞ、セラルさん」
 導かれるままに足を踏み入れ、僕のために開かれた扉を閉める。その間に、彼女はいつもどおり、奥に向かっていく。玄関から真っすぐ進めば、すぐにあるのは小さな居間だ。彼女が一人で暮らすこの家の間取りを、僕はもうすっかり把握していた。
 あとを追って居間へと入ると、彼女は椅子を引いて僕を待っていた。普段ならテーブルの上に溢れている本も、今日はきれいに棚の中に収められている。思わず苦笑する僕に、彼女は穏やかに微笑んだ。
「座って、今、お茶を入れるから」
「いいよ、そんなことはしなくても。今日はただ、」
 言いながら、僕は肩にかけていた鞄を開けた。前にこの家に来たときに、指環の入った群青色の小箱を取り出したのと同じ鞄だ。
 その鞄から、今日は、生成りの布に包まれた品物を引き出す。布を静かに引き剥がして、僕は薄く笑みを刻んだ。
「きみを、殺しに来ただけだから」
 現れた銀の刃が、冷たく光をはらんで揺れた。