純白の香り
[ 3 ]   あの日から一年後の手紙
『 ユリをくださった方へ


 この手紙を、あなたが手に取ってくださることを祈ります。
 いつかは、たいへん勇気の要るであろうお申し出とともに、
 花を献じてくださって、ありがとうございます。
 妹も、きっと喜んでいることでしょう。

 お察しの通り、私の中に巣くった悲しみと苦しみの闇は
 晴れることを知らず、今もなおこの心を蝕み続けています。
 いつか霧が薄れるように消えてなくなることがあるのか、
 それすらも私にはわかりません。
 いいえ、今のままでは、そのような日は永遠に訪れないでしょう。
 もしかしたら、あなたもそうなのかもしれないと、
 失礼ながらそう思います。


 妹をあのような目に遭わせたのがあの男だと
 知ったとき、私はあの男に復讐すると誓いました。
 必ずこの手で仇を討ってやると誓ったのです。
 けれど、ご存知のとおりその後間もなく、あの男は
 ロヴァンシェ河に落ちて溺れ死にました。
 妹を襲ったときと同じく、そのときのあの男は、
 したたかに酔っていたという話を聞きました。

 もし、
 もしも妹が亡くなった日と、あの男が死んだ日が逆だったら、と
 そう思わずにはいられません。
 そう、もしもあの日、私が家に仕事道具を忘れていなければ、
 そして妹がそのことに気づかなければ、
 それを届けに家を出ることがなければ、
 もしくはあの日以前に、あの男が河に落ちていたなら――

 愚かしいと笑われるでしょうか。
 どうにもならないとわかっているのに、
 そう思わずにいられないのです。
 早くに親を亡くした私たちにとって、お互いは、
 たった一人の、かけがえのない肉親でした。
 その妹を死なせてしまった原因が自分にもあるという事実は、
 冷たく重い闇となって私の心を押し潰そうとしています。

 その闇を少しでも晴らそうとして、私は、復讐を
 思い立ったのかもしれません。この手で仇を討てば、
 無力で何もできなかった自分にも、償うことができるのだと
 信じたかったのです。あの男が死んだときは、
 その機会すらも永遠に失われたのかと思いましたが――
 ですが、この暗い想いは消えることなく、
 気がつけば、今ではあの男の血縁にまで向けられているのです。

 もちろん、憎むべきはあの男であり、
 他の誰でもないことはわかっています。それでも、
 あのような、汚い手段で保たれていた醜い権力と平穏の下で、
 何不自由ない暮らしを享受していた人間がいる、ということに――
 さらには、おぞましいあの男の血を受け継ぐ者がいる、という
 それだけのことにさえ、耐えがたい嫌悪を感じてならないのです。

 どうやら、どこへもやりようのないこの想いを、私は
 どうにか果たさずにはいられないようです。
 そうでなければ、この冷たい苦しみに、
 いつか身も心も凍りついてしまうでしょう。


 もしもそのようなことになれば、
 度の過ぎる願いとは重々承知していますが、
 どうか年毎の命日に、私の代わりに
 妹に花を飾ってはいただけないでしょうか。

 この手紙を読まれているということは、少なくとも、
 今年の命日にもいらしてくださったものと思います。
 来年の今日、私がここに来られるかどうかはわかりませんが、
 顔を合わせたくないということでしたら、
 私は妹の亡くなった昼過ぎにしか参らないので、
 そのことをお心に留め置いていただければと思います。

 長々と乱筆乱文、さらにあつかましい願いなど、
 失礼いたしました。
 あなたのお心にも、平穏の訪れることを祈ります。
アシェル=ラングリース 』